橘玲

性市場では、多数の若い男性と若い女性が互いに性的パートナーを得ようと複雑なゲームを行っている。保守的な社会では、大半の女性が婚前交渉を拒むから、男性が(売春以外で)セックスを手に入れるためには、結婚によって生涯にわたる経済的援助を約束しなければならない。いうまでもなく、これは男性にとってきわめてハイコストな取引だ。 このとき、あるタイプの女性が避妊を条件にカジュアルセックスを受け入れるようになったとしよう。これは一部の商店が(ほとんど)同じ商品を格安で販売するのと同じだから、“消費者”はこぞってこの女性に殺到するはずだ。 そして、この「受け入れてくれる(やらせてくれる)」女の子はまちがいなくモテるのだ。 そうなると、道徳的な女の子(とても多い)はカレシ獲得競争できわめて不利な立場に置かれることになる。好きな男の子がいても、セックスを拒んでいると、カレは「やらせてくれる」女の子のところに行ってしまうのだ。 ユニクロの登場でフリースやジーンズなどカジュアルウェアの価格が大きく下落したように、一部の女の子がカジュアルセックスを楽しむようになると、それにひきずられて性市場における女の子のセックスの価格も下落してしまう。このようにして、保守的で道徳的な社会であっても、多くの女の子が婚前交渉に応じざるを得なくなる。 研究者の推計(マリナ・アドジェイドによる)では、2002年に性体験をもった未婚のティーンエイジャー(13歳~19歳)のうち、「ピルで避妊できる」との理由でセックスした割合は1%に満たない。 このごくわずかな女性が、性市場での男の子と女の子の「ゲーム」のルールに大きな変化をもたらし、コンドームなしのセックスを拒否できない女の子を激増させることにつながっているという。